万能薬の登場

 外国のテレビドラマや映画を見ていると、彼らがよくコーヒーを飲んでいるシーンを見かける。しかも、そのカップはただものではない。大きいのである。我々のコーヒーカップの3倍ぐらいの大きさではないだろうか。あのカップで、一日に何倍も飲む。よく体を壊さないものだ。ただ、彼らの飲むコーヒーは、日本のように濃くないらしい。でも、あれだけの量を飲めば、お腹がだぶだぶにならないだろうかと思ってしまう。

 米国でホームスティをしていた人が、向こうの人の食べるハンバーガーやホットドッグ、ステーキ、ソフトクリームなどは、どでかくて、我々が食べる大きさの何倍もあると語っていた。

 私はコーヒーが好きだから、控えてはいるものの一日に何杯か飲む。あまり飲むと体に悪いかなと思ったりする。以前、一日に4杯以上飲む55歳未満の人は、飲まない人にくらべて死亡率が高いと、米国の研究チームが発表していた。しかし、確か7年程前、コーヒーを毎日飲む人は肝臓癌にかかりにくいと厚労省の研究班が発表していたはずだ。飲まない人に比べて発症率は約半分だとのことなので安心した。しかし、これはあくまで肝臓に対してであって、肝臓には良くても、胃の方には大丈夫かと考えてしまう。一つの発表で、一喜一憂したり、鵜呑みにしたりすると、別な危険がやって来る。ついでに、米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究でコーヒーに含まれるカフェインは、眠気を覚ます作用だけでなく、学習後に摂取すると記憶力を高める働きもあるようなことを発表していた。それにしても、糖の摂りすぎはよくないと甘い物を控え、血圧によくないからと塩を控え、痛風になるからと肉やレバーなどを遠ざけたり、酒もよくないから等々、何かと大変である。人によっては何のために生きてるんだとガックリしたり、開き直ったりするだろう。そして、薬局では健康のための薬、栄養剤が売られている。ことに最近、テレビコマーシャルなどで頻繁に流されている。

 ところで、これだけ医学の進んだ今日、何をいっぱい食べても、どれだけ飲んでも、大丈夫という薬が出てきてもよさそうなものだが、そうはいかないのだろうか。饅頭を食べすぎて糖分を摂りすぎたと思ったら、除糖剤を飲めば安心というような。砂糖、塩、酒等々の摂り過ぎに、一錠飲めばその害となるものが殆ど吸収されないような薬。それを食前か食後に飲むと、すべて解決というように。そんなものがあれば、さしずめ私なら饅頭をいっぱい食べるだろう。ついでに、虫歯や歯槽膿漏にならない予防注射など、できないのが不思議な気がしないでもない。そうなれば入れ歯も不要だし、テレビでよくコマーシャルしている入れ歯洗浄剤もいらなくなってしまう。

 万能薬が出てきたら、食べる方も安心である。その薬を一日1カプセル飲めば、高コレステロール、肥満、アルコール依存、不眠、頭痛、老化、高血圧、食べ過ぎ、運動不足、ついでに日焼け等々、すべての症状を防いだり、治ってしまうというような。営業妨害だと、お医者さんが怒ってくるかも。いや、その前に、人間が堕落してしまう危険の方が大きいだろう。

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