童謡『ぞうさん』

 “ぞうさん ぞうさん おはながながいのね そうよ かあさんも ながいのよ”。この歌は、平成6(1994)年国際アンデルセン賞・作家賞を日本人で初めて受賞したまど みちおさんが昭和26年、41歳の時、幼児向けの童謡を書いてほしいと頼まれ一晩で書きあげたものである。團伊玖磨氏が曲をつけ、昭和27年にNHKで放送され全国に広まった。この『ぞうさん』、そんなに昔の歌だとは知らなかった。その氏が、2月末、104歳で亡くなられた。

 「ぞうさん ぞうさん」と誰かが子ゾウに話しかけることから始まり、「(他の動物と比べて)おはながながいのね」という問いかけに、子ゾウは「そうよ かあさんもながいのよ」と母ゾウと似ていることを嬉しく答えている。そして「だあれがすきなの」という問いに、子ゾウは「あのね」と間を置いて、「かあさんがすきなのよ」と。氏は、“ゾウの子が鼻が長いとからかわれた。でもしょげたりせず、いばって答える歌”“ゾウがゾウに生まれたことを、素晴らしいと思っているからです”と。この歌は、ただ単に、ゾウの親子の仲良しの歌ではないのである。『鼻が長い』と言われれば、からかわれたと思うのが普通だが、子ゾウは『お母さんだってそうよ』『お母さん大好き』と言っている。極めてシンプルな歌詞に、“個性”や“生命愛”への強い思いが込められている。

 まど みちおさんの『一ねんせいになったら』。こちらは、「歌えバンバン」などの童謡をはじめ、NHK大河ドラマや映画「男はつらいよ」など知られる山本直純氏作曲。ランドセルを揃え、持ち物一つひとつに名前を書いたり、入学の準備をしながら、子どもは嬉しさに胸を膨らませている。でも、同時に「友達ができるかな」「小学校ってどんな所なんだろう」「勉強についていけるかな」など、不安な気持ちも抱いている。そんな不安を吹き飛ばすような元気いっぱいの歌である。子どもたちを温かく見守り、応援するこの歌には、優しいまなざし、愛情が感じられる。

 ところで奈良時代、万葉歌人山上憶良は“銀も金も玉も何せむに 勝れる宝 子にしかめやも”と歌っている。金銀財宝が何だろう、わが子に勝る宝はないのだ。日本人は古来、子どもを「子宝」として大切に育ててきた。しかし、憶良は、その子が幼くして病死するという悲劇に襲われている。冥途へ旅立つ我が子を見送る悲しみの歌が“若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ”である。“私の子どもは幼くして黄泉の国へ行くことになりました。きっと道も知らないことでしょう。冥土からお迎えの使者よ、贈り物をいたします。どうかこの子をおぶって通してやってください”と。

 当時の社会では、乳幼児は病によっていつ死に遭遇するか分からなかった。このことは江戸時代、いや明治になってもそうであった。しかし、今や、どの子もそんな悲劇に遭遇することは極めて少ない。にもかかわらず、親の手による悲劇が後を絶たないのは、どうしてだろう。児童虐待も、いじめもない、子どもの夢が大きく開く世の中であってほしいものだ。

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