令和3年度 学位記授与式 学長式辞
2022年 3月 18日
式辞
本日、ここに令和3年度東大阪大学(東大阪大学短期大学部)学位記授与式を挙行いたしますが、新型コロナウイルス感染の終息が見られない中、二年前から感染対策に配慮し、少人数、時間短縮で行っております。卒業生の皆様、ご家族の皆様は、この日を楽しみにしておられたことと思いますが、まことに心苦しいですが、この会場で本日巣立つお子様の晴れ姿をご覧いただくことができない形での開催となりましたことにご理解とご協力を賜り、深く感謝申し上げます。
新たな一歩を踏み出そうとしている卒業生の皆様、コロナ禍で遠隔授業や対面授業やと、変則的な学習環境の中で、よく頑張り卒業できたことは、皆様の努力の賜物です。おめでとうございます。この日まで、長きにわたりお子様の勉学を支えてこられましたご家族の方々に敬意を表しますと共に、心よりお喜び申し上げます。また、今日まで本学にお寄せくださいましたご支援、ご協力に対し、心から感謝し、熱く御礼申し上げます。
さて、皆様の学生生活最後の2年は、新型コロナウイルス感染拡大のために、私たちの社会のあり方や日常を大きく変えました。誰もが経験したことのないこの事態に直面し、不安と恐怖の毎日を送ってきました。しかし、このような全世界を騒がす感染症は、今、突然始まったことではないのです。
感染症の歴史「日本疾病史」によると、感染症はわが国では9世紀平安朝のころから、それ以降も頻繁に流行を繰り返してきたのです。その中でも、史上最悪の事態と言われていたのが、今から一〇〇年前の1818年(大正7年)~20年(大正9年)にかけて世界的に大流行した、一般に「スペイン風邪」と言われているものがあります。今のように世界的に大流行した、感染症のパンデミックです。当時の記録によると、わが国では、流行による死者38万5000人と記録されていますが、実際はそれ以上の数であったと言われています。現在のコロナによる死者数は、3月15日現在で、非常に残念なことですが、2万6466人という多くの方々が亡くなられておられる現実です。しかし、先にも述べましたが、大正期の「スペイン風邪」は、今よりはるかに多い犠牲者の数だったのです。このことは、今より医療環境の悪さや、情報収集の困難さ、生活環境の悪さであったと思われます。この100年で社会は変化し、進歩し続けてきた成果であるということです。当時の人たちも、流行の広がりを何とか食い止めようと、持てる資源と英知で流行に立ち向かった記録があります。当時の記録をたどると、現在と同じように「マスクとうがいの励行」「病人はなるべく別の部屋に」「予防注射と日光消毒」「汽車電車ではマスクを」「手当が早ければ早く治る」等のポスターがあちこちに貼られ啓発しています。また、学校を休校にする措置もとられていたようですが、学校が休みになると中学生くらいの年齢の人たちは行き場がなく、図書館に集まる状況が起こり、そこでクラスターを引き起こしたという記録もあります。こうした残された記録から、新しい社会のあり方を考える資料となるのです。
今、私たちが直面しているパンデミックの事態に、立ち向かい考えたこと、考えている事、変化した事実を、当事者の記録として後世の人々に語りつなぐ大きな役割があります。
みなさんがコロナ禍の学生生活を送った2年間、今まで誰もが経験したことのない、先行きが見えないことへの不安と恐怖をいだき過ごしたこの経験は、今、全世界の人々が同じように経験している共通の経験です。突然「普通であった生活が普通でなくなり、今まで当たり前にしていたことができなくなった」この経験を忘れてはなりません。私たち人間は、人間以外の微生物と共存しており、いつ、また、突然このような事態が起こり得るかはわからないのです。
ある学生さんの「コロナ禍の生活」についてのレポートに次のようなのがあり、紹介します。
『ちょうど2年前、新型コロナウイルスが流行し、私たちの「当たり前」だった世の中を一変しました。今まで普通だったことが普通でなくなりました。友達にも会えず、話す時、外に出る時はマスクの着用、テーマパークやショッピングモールは閉店、そしてニュースは毎日のように「感染者何人」「コロナによって何人死亡」など、心が痛む内容を耳にします。私はコロナ禍の社会の生活では、「当たり前」は存在しないのだということを学びました。毎日学校に行けること、仕事があること、そして生きている事は、決して当たり前ではないということを、この世の中になって気づけたように感じます。だからこそ、コロナ禍の社会に正面から向き合って生きていくことが大切だと思います。コロナになって、周りの人を大切に思う気持ちや、社会の現状について考えようとする自分になりました。』と。またある人は、『先が見えなかったこの2年間精いっぱい生き、苦しみや悲しみに耐えてきました。人と人が繋がること、顔を合わせて笑い合えること、何気ない「普通」なことが、普通にそばにあること、それがどれだけ幸せであり、そのことが「普通でなかった」ことに気付かされました。当たり前に人とかかわることができる世界のままだと、その大切さに気付くことなく過ごしていたと思います』と書いています。
多くの学生さんがこのようなことを書いています。それを読ませていただき、このような経験は、これから社会人として生きていく皆様にとって貴重な体験であったと思います。「ヒトと関わりながら生きている事、互いを支えながら生きている事」を実感し、今後どんな困難に陥っても、人びとと共に乗り越えていくのではないかと思いました。
歴史学者・哲学者の、ユヴァル・ノア・ハラリが、「人類は新型コロナウイルスといかにたたかうべきか―今こそグローバルな信頼と団結を―」と述べ、「必要なのは互いの信頼と団結を」と結んでいます。社会人として、周囲の人々と共によりよい社会を築く一員として、互いを尊重し、知恵を出し合いながら素晴らしい社会を築いてほしいと思います。
卒業生の皆様は今日を最後にこの学び舎を去っていきますが、遠慮なく、いつでも、本学を訪れてください。
健康に気を付け、未来に向かって自分らしく、第1歩を踏み出しましょう。
本日は誠におめでとうございます。
令和4年3月18日
東大阪大学・東大阪大学短期大学部
学長 吉岡眞知子